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2024.04.18 (労働法)
労使協定の締結などに関わる『過半数代表者』の正しい選出方法

従業員と労使協定を結ぶ際などには、従業員の過半数で組織する労働組合から意見を聞く必要があります。
そして、もし会社に組合がなければ、従業員のなかから『過半数代表者』を選出してもらうことになります。
過半数代表者とは、従業員の過半数を代表する者のことを指します。
しかし、過半数代表者の選出方法が適正ではないと、締結した労使協定や変更した就業規則が無効になる可能性があります。
労働法に基づく正しい過半数代表者の選出方法を理解しておきましょう。
 

従業員の主導で選ばれる過半数代表者とは

労働基準法により、法定労働時間は原則1日8時間以内、1週間に40時間以内と定められています。
これを超えて従業員に労働させる場合は、使用者と従業員との間で、労働基準法第36条に基づく労使協定、いわゆる『36(サブロク)協定』を結ばなければいけません。

また、36協定以外にも1カ月または1年単位などの変形労働時間制に関する協定や、フレックスタイム制に関する協定、事業場外労働に関する協定や代替休暇に関する協定、賃金控除に関する協定など、多くのケースで従業員との労使協定の締結が必要になります。

常時10人以上の従業員を使用する事業場では就業規則を定める義務があり、この就業規則を作成したり変更したりする場合も、本来はすべての従業員の意見を聞くことが望まれます。
しかし、使用者である事業者側が全従業員と協定を結んだり、意見を聞いたりすることは現実的ではありません。
そこで、労使協定を締結したり、就業規則を変更したりする場合は、過半数の従業員で組織する労働組合か、組合がない場合は『過半数代表者』を選出して、やり取りをすることになります。

労働組合は全国に約2万3,000組合ほどありますが、事業規模が99人以下の企業における労働組合のある割合は0.8%ほどなので、多くの中小企業では過半数代表者が労使協定や就業規則に関わる当事者となります。

この過半数代表者を決める際に注意したいのが、選出方法です。
過半数代表者は従業員の過半数を代表することになるため、従業員のなかから選んでもらう必要があります。
会社が代表選出の手続きに関与したり過半数代表者を指名したりしてはいけません。
会社の意向に基づいた過半数代表者と結んだ労使協定は、無効になります。
たとえば、使用者が指名した場合や、社員の親睦会の幹事などを自動的に選任した場合なども、労使協定を結ぶために選ばれたとはいえないため、過半数代表者とは認められません。
また、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者も経営者側の立場とみなされ、過半数代表者になることはできません。
ここでいう管理監督者は、労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場にある人のことで、肩書や職位でなく、その職務内容や責任と権限などの実態によって判断されます。

全従業員が参加して民主的な方法で選出

過半数代表者は、従業員一同による投票や挙手、もしくは話し合いや持ち回り決議など、従業員の過半数がその人を選んだことがわかるような民主的な方法で選出します。
ただし、すべての従業員に対して過半数代表者の選出に関するメールを送り、返信のない人を信任(賛成)したものとみなす方法は、過半数が支持しているとはいえない場合があるので注意が必要です。

また、過半数代表者はすべての従業員の過半数を代表することになるため、選出には正社員だけでなく、パートやアルバイトなどにも参加してもらう必要があります。
会社は選出に関与してはいけませんが、意見の集約に必要な社内メールや、事務スペースの提供などは必要に応じて行うようにしましょう。

選出において、過半数代表者が適正な方法によって選ばれたことを証明するために、会議の議事録や投票記録などを提出してもらいましょう。
同時に、選ばれた過半数代表者が管理監督者ではないことを示すため、そのときの労働条件なども記録しておくことをおすすめします。

そして、使用者が特に注意したいのは、過半数代表者に対する取り扱いです。
過半数代表者であることや、過半数代表者になろうとしていたことを理由に、当該の従業員に対して、解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いをしてはいけません。

使用者は過半数代表者が従業員の過半数を代表する者であることを意識しながら、労使協定や就業規則に関するやり取りを進めていきましょう。

2024.04.18 (人的資源)
早期退職を防ぐために!『衛生要因』を可視化する方法

早期退職する従業員の多くは、給与や労働環境、人事評価などに不満を持っています。
このように従業員が不満を抱く要因のことを、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグは『衛生要因』と名づけました。
衛生要因が改善されていないと、従業員の不満は溜まっていき、最終的には離職に至ってしまう場合があります。
従業員が離職するリスクを解消するためには、従業員がどの衛生要因に対して不満を持っているのか把握しなければいけません。
今回は、衛生要因を『見える化』するための方法を解説します。
 

『衛生要因』と『動機付け要因』とは?

厚生労働省によれば、2022年の1年間の離職者は約765万人でした。
前年よりも離職者数は増えており、今後もその傾向は続いていくと見られています。

また、総務省が公表している『令和4年就業構造基本調査』では、過去5年間に前職を辞めた人の離職理由のトップが「労働条件が悪かったため」(約232.6万人)でした。
特に、「自分に向かない仕事だった」(約140.9万人)と回答した人は5年前から約25万人も増えています。

前述のフレデリック・ハーズバーグは、職場における特定の要素が仕事の満足や不満足につながるという『二要因理論』を提唱しました。
この理論のなかで、従業員に不満を抱かせる要因のことを『衛生要因』、仕事の満足感を得られる要因のことを『動機付け要因』と定義しています。

仕事の満足感を得られる動機付け要因として、「仕事の成果」や「やりがい」、「業務への責任感」や「理念への共感」などがあります。
一方、衛生要因は「職場の人間関係」、「職場環境」、「給与」など、より個人の生活に根ざしている要因が含まれます。
二要因理論では、この動機付け要因を満たし、かつ衛生要因の不満が解消されることで、従業員の仕事に対するモチベーションを最大限に高められるとしています。

つまり、従業員の不満足と満足を感じる要因に相関性はなく、衛生要因だけが改善されても、仕事自体への満足度は上がらず、あくまで不満が解消された状況に過ぎないということです。
従業員の仕事への満足度を向上させるには、動機付け要因も並行してバランスよくアプローチしていく必要があります。

衛生要因から現状との乖離を見つける

仕事の満足感には直接関係しない衛生要因ですが、だからといって放置してよいわけではありません。
衛生要因が改善されないままだと、不満が蓄積し、従業員の離職につながる可能性が高くなります。
給与に納得できていないのか、それとも人間関係に悩んでいるのか、従業員の不満を取り除きストレスを減らすためには、従業員が納得できていない衛生要因を見つけ、企業側が解決に向けて動く必要があります。

そのためには、まず現状の可視化が欠かせません。
衛生要因が解消されていない従業員は、一般的に不満を表に出すことはありません。
管理者側は、注意深くすべての従業員を観察し、普段の言動からあたりをつけていきます。
たとえば、ミーティングや会議などの場で、積極的に発言をしなかったり、面倒くさそうな態度だったりする従業員は要注意です。
解決できていない衛生要因を抱え、やる気をなくしている可能性があります。

観察によってあたりをつけると同時に、社内アンケートや満足度調査、個別ヒアリングも不満を感じている衛生要因の可視化には効果的です。
匿名でのアンケートなどであれば、従業員も不満を吐き出しやすくなります。
従業員がどこに不満を感じているか把握できたら、本人が重視していることと現状で、何が乖離しているかについて確認します。
たとえば、個人で完結する業務を得意としている従業員に顧客訪問が必要な業務を担当させている、社外で人と接する仕事がしたい従業員に在宅で事務作業をさせているようなケースです。
このように本人の意思と現状の乖離を把握し、解消していくことで、離職防止につなげることができます。

企業としては、まず従業員が不満に感じている衛生要因を把握することが最優先です。
その次に、衛生要因に応じた対策を講じていくことが重要です。
また、従業員が意欲的に働くためには、衛生要因を取り除くだけではなく、動機付け要因を満たすための施策も大切です。
それぞれの内容と違いを理解しながら、離職防止に向けた取り組みを進めていきましょう。

2024.04.04  (労働法)
『ダイバーシティ』に対応! 多様性のある『就業規則』を作るには

常時10人以上の労働者を使用している事業場では、労働基準法に基づき、賃金や労働時間などについて定めた『就業規則』を作成することが義務づけられています。
就業規則は法令の改正や社会の状況、時代の変化などに合わせて見直すものですが、創業時に作成した就業規則をそのまま使用している場合は、不測の事態をもたらすリスクが懸念されます。
働き方や人材が多様化する現在においては、昔のままの就業規則が従業員の意識との乖離を起こし、さまざまな問題を引き起こすきっかけにもなりかねません。
多様性のある就業規則の作り方について解説します。
 

就業規則を見直していない企業は要注意

『ダイバーシティ(Diversity)』とは、人種や性別、障害の有無、嗜好や価値観などによる『違い』を受け入れて尊重することを意味し、日本では『多様性』とも訳されます。

少子高齢化や労働者人口の減少が進む日本では、採用や組織づくりなどの面から注目が集まり、2000年代頃から急速に進んだグローバル化により、ダイバーシティ・マネジメントを取り入れた経営を行う企業が増えてきました。
人種や性別などを限定しない多様な人材の採用は、企業にとって労働力を確保できるほか、生産性の向上やイメージアップなどのメリットもあります。
しかし、採用の現場では当たり前になりつつあるダイバーシティですが、組織の内部においては、多様化に対応できていないケースがまだまだ見受けられます。
その一つが、『就業規則』です。

就業規則は労働条件と職場でのルールを記したもので、企業と従業員の双方が定められた就業規則を守ることによって、従業員は安心して組織で働くことができます。
常に就業規則を見直し、時代の変化に合わせて刷新している企業がある一方で、就業規則の見直しを行なっていない企業もあるようです。
採用の現場と同様に、ダイバーシティに沿った就業規則がこれからの時代には必須となり、対応できていない企業は、解釈の違いにより思わぬ労使トラブルを招いてしまう可能性もあるでしょう。

働き方の多様化に対応するために

就業規則を見直す際に考えたいのが、従業員の区分です。
近年は働き方自体の多様化によって、あえて正社員としての就労を希望しない人も増えてきました。

たとえば、これまで正社員だけを雇用していた会社であれば、正社員に対する就業規則だけを定めておけば問題はありませんでした。
しかし、契約社員やパート・アルバイトを雇用する場合は、注意が必要です。
従業員の区分は法的な定義があるわけではないため、契約社員やパート・アルバイトなどを雇用した際に適用範囲が明確でない場合は、既存の正社員向けの就業規則が適用されてしまう可能性があります。
もし、正社員以外を雇用するのであれば、会社として契約社員やパート・アルバイトなどを含めた従業員区分の定義を定め、その定義に従い就業規則の適用範囲を決めましょう。

また、今は正社員であっても、結婚や出産、育児や介護などによって、将来的にはフルタイムでの勤務がむずかしくなる従業員がいるかもしれません。
さまざまな状況を想定しながら、多様な働き方ができるように、従業員の区分を明確にしましょう。
裁量労働制や変形労働時間制、フレックスタイム制などについても、規定を盛り込んでおくことをおすすめします。

多様な性を受け入れるために

また、ダイバーシティに対応した就業規則を作成するには、LGBTQ(※)への配慮も必要です。
LGBTQなどの多様な性の受け入れは、ダイバーシティを推奨する企業にとっては欠かすことのできない取り組みの一つです。
※LGBTQ(エルジービーティーキュー)…Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性別が異なる人)、Queer/Questioning(クィア/クエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称の一つ

慶弔休暇を例にすると、企業には、法律で定められた法定休暇以外に、福利厚生として会社独自の法定外休暇を定めることがあります。
法定外休暇のうち、従業員が結婚して慶弔休暇を取得する際にも配偶者の範囲について、就業規則をLGBTQに対応したものに見直しておきましょう。
たとえば、配偶者の定義を法律婚や事実婚に限らず、同性パートナーも含めて「法律婚を問わず一定の行政手続を経た者」とすることで、従業員はパートナーが異性・同性を問わず、法律婚のケースと同様に慶弔休暇を取得することができます。

また、同様に医療費の補助や手当の支給要件などに関する配偶者の範囲についても、見直しをしておく必要があります。
ただし、制度を適用する際には、対象の範囲があいまいにならないように、「事実上の婚姻関係」にあることを証明してもらうことも重要です。
同性カップルであれば、自治体が交付している同性パートナーシップ証明書や、同居を証明する住民票などを提出してもらうようにしましょう。

就業規則を見直し、変更するには、過半数の従業員が加入する労働組合、または労働者の過半数を代表する者からの意見書を添付し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
また、変更した場合は、事業所の見やすい場所に掲示するなど、従業員への周知も忘れずに行いましょう。

労務トラブルは時代や社会の背景に合わせて内容が変化していきます。多様な働き方や、ダイバーシティを受け入れる現代社会に合わせた就業規則になるように、専門家にも相談しながら今一度自社の就業規則の見直しを行いましょう。

2024.04.04  (人的資源)
GW明けの離職を防ぐ! 『メンター制度』で相談できる環境を構築

GW(ゴールデンウィーク)は新卒の新入社員にとって、4月に入社してから初めての大型連休になります。
英気を養うための大型連休ですが、連休中とのギャップや、慣れない仕事へのストレスなどにより、GW明けからメンタル不調に陥ってしまう新入社員もいます。
メンタル不調は離職につながる可能性もあり、企業としては貴重な人材を失うことにもなりかねません。
不安や悩みを抱えた社員をフォローする『メンター制度』の概要や、導入手順などを解説します。
 

不安や悩みに寄り添う『メンタリング』

厚生労働省によれば、2020年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が37.0%、新規大卒就職者が32.3%でした。
どちらも前年より上昇しており、若手社員の早期離職が増加していることがわかります。

特に生活のリズムが乱れ、職場や仕事への不安が浮き彫りになる大型連休明けは、離職が増える時期といわれており、企業としては何らかの対策を講じる必要があります。
その一つが、『メンター制度』の導入です。

メンター制度とは、『メンター(Mentor)』と呼ばれる経験豊かな先輩社員が、『メンティー(Mentee)』と呼ばれる後輩社員に対し、仕事やキャリアの形成、人間関係など、職場や会社におけるさまざまな問題の解決に向けて、サポートを行う個別支援活動のことです。

支援活動は主に双方向の対話によって行われ、メンターはメンティーが自主性を持って判断し、課題解決に向けて動けるようにサポートをしていきます。
この定期的なサポートのことを『メンタリング』といいます。

メンターはメンティーの直属の上司や先輩ではない、別部署の先輩社員が選ばれることが一般的です。
メンター制度は、通常は自然に関係性が築かれる職場の先輩・後輩の関係を制度化したものであり、直接的な人事評価を行わない他部署の先輩社員がメンターとなることで、メンティーは気負うことなく、悩みや不安を打ち明けることができます。

新入社員は、新しい職場環境や慣れない仕事への不安から、無意識のうちにストレスを溜めてしまい、大型連休明けに憂鬱な気分になったり、不安感に襲われたりすることがよくあります。
こうしたメンタル不調に陥った際に、親身になって自分の話に耳を傾けてくれる先輩社員がいれば、不安感や焦燥感は和らぎます。
また、対話によって漠然とした自分の目標や仕事への意義などを明確にすることもできるでしょう。

メンター制度を導入するための準備

メンター制度を導入する場合は、まず目的と対象者(メンティー)を明確にします。
たとえば、毎年大型連休後に新卒の新入社員から離職者が出ているのであれば、目的は離職者を出さないことになり、対象者は新卒の新入社員になります。

メンター制度を導入する前に、社内で意識調査などを行い、現状を把握しておくことも重要です。
離職者が出ている原因が業務内容や人間関係によるものではなく、給与や労働時間といった労働条件などに起因するものであれば、労務的な観点からの改革が必要だからです。

導入する目的と対象者が決まれば、具体的な運用の期間や面談の頻度などを計画に落とし込んでいき、人事部の社員などで構成されたメンター制度の推進チームによって計画を進めていきましょう。

まずは、メンターを指名、または自薦・他薦などの方法で選定したうえで、メンターにふさわしい人物かどうかの選任を行い、メンティーとのマッチングを行なっていきます。
メンター制度は、個人の能力に依存する部分が大きいため、メンターを選定する際には、経験が豊富で人材育成の重要性を理解し、信頼感のある誠実な人を選ばなければいけません。

また、メンターとメンティーの相性は重要です。
相性が悪ければ、メンターとメンティー双方の離職を促してしまうことにもなります。
マッチングの際には、双方の性格や特性をよく分析し、対象のメンティーに寄り添える人物を担当させるようにしましょう。

そして、実際にメンタリングを始める前に、メンターおよびメンティーに対しての事前研修を行ないます。
研修をとおして、お互いの役割や期待、行動などをあらかじめ明確にしておくことで、誤解や混乱を防ぐことができます。特にメンターは効果的なメンタリングができるようにスキルを身に付けることも大切です。

メンタリングのタイミングは企業によって異なりますが、大型連休明けの離職防止を目的とするのであれば、大型連休の前後に面談の時間を設けることをおすすめします。
原則として、メンタリングは就業時間内に行うようにし、メンタリングが終わったら、推進チームにメンターから内容を報告してもらうようにします。
この報告とメンティーへのアンケート調査をもとに、課題を洗い出しフィードバックすることで、効果の高いメンタリングを実施していきましょう。

メンター制度の導入は新入社員の離職防止だけでなく、メンターとなる先輩社員のコミュニケーションスキルや、部下育成の視座を育めるというメリットがあります。
しかし、メンターの役割を担うことで、業務負担が増えたり、人間関係の悪化を招いたりするおそれもあります。

まずは自社にメンター制度の導入が必要かどうかを確認し、導入するのであれば効果的に制度を活用できるよう十分な準備を行いましょう。

2024.03.21 (労働法)
障害者の『法定雇用率』で企業が注意すべきポイントは?

企業に一定の割合で障害者雇用を義務づける『障害者雇用促進法』が改正され、雇用人数の割合を定めた『法定雇用率』の2.3%が、2024年4月から2.5%に引き上げられます。
法定雇用率の引き上げに伴い新たな雇用を行うにあたり、障害者の雇用経験やノウハウがなく、また、手続きや対応などの面から不安を抱えているという企業も少なくないでしょう。
そこで今回は、障害者の雇用を行う企業の負担を軽減するための助成措置や、サポートを受けられる支援機関および支援制度などを紹介します。
 

障害者雇用で受けられるさまざまな助成措置

法定雇用率の引き上げにより、従業員を40人以上雇用している企業には、2024年4月から障害者を1人以上雇用する義務が生じます。
対象となる企業は、毎年6月1日時点における障害者雇用状況を『障害者雇用状況報告書』にまとめて、管轄のハローワークに報告しなければいけません。
この報告のことを通称『ロクイチ報告』と呼びます。

障害者の雇用人数が0人であってもロクイチ報告を行わなければならず、報告をしない、または虚偽の報告をした場合には30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
法定雇用率を満たしていない企業に対して、管轄のハローワークは『障害者雇入れ計画』の提出を命じることがあります。
そして、命令が出た後の一定期間、計画に沿った障害者雇用の実施状況をチェックします。
計画を提出してなお基準の法定雇用率が未達成のままの企業には、適正実施勧告や特別指導、企業名の公表などの措置が取られます。

さらに、常用雇用労働者が100人超の未達成企業からは『障害者雇用納付金』が徴収されます。
これは『障害者雇用納付金制度』に基づくもので、常用雇用労働者100人超で法定雇用率を下回る企業は、不足する障害者数1人当たり月額5万円を納付する必要があります。

一方、常用雇用労働者100人超の企業で法定雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、超過1人当たり月額2万9,000円の『障害者雇用調整金』が支給されます。
なお、常時雇用労働者数が100人以下の企業で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数を超えて障害者を雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している障害者1人当たり月額2万1,000円の報奨金が支給されます。
また、自宅などで働く在宅就業障害者に仕事を発注する企業に対して、特例調整金または特例報奨金を支給する『在宅就業障害者に対する支援』もあります。
該当するようであれば、条件などを確認しておきましょう。

ほかにも、短期間であれば働ける障害者の就労機会の確保を目的に、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者を、1年を超えて(見込みを含め)雇用する企業に対して一定額を支給する『特例給付金制度』がありましたが、2024年4月1日より、週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者について、雇用率上、1人を0.5人としてカウントできるようになりました。
そのため、この特例給付金は廃止されることになります。

ただし、この特例給付金制度について、2024年3月31日までに雇い入れられた週所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度以外の身体障害者および知的障害者については1年間の経過措置があります。

ハローワークで受けられる雇用サポート

各都道府県の労働局とハローワーク、障害者就業・生活支援センターなどの支援施設では、障害者雇用促進のためのさまざまな取り組みを行なっています。
特に、障害者を雇用するイメージが湧かない企業に対しては、セミナーや見学会、障害者の職場実習の受け入れ推進をはじめ、障害者を試行的・段階的に雇い入れることができるトライアル雇用のサポートといった支援を実施しています。

また、ハローワークでは、求職活動をしている障害者と企業をマッチングさせる障害者就職面接会も定期的に開催しています。
地域のハローワークには相談窓口が設けられており、エリアによっては専門の職員や相談員が配置されています。
障害者雇用への疑問や不安がある事業者は、一度相談してみることをおすすめします。

さらに、障害者雇用に関しては、政策金融公庫による低利貸付制度や、助成金の非課税措置や事業所税の軽減措置といった税制優遇制度などの助成措置も講じられています。
『特定求職者雇用開発助成金』などの各種助成金は、ハローワークの紹介により、一定期間「継続して雇用する労働者」として障害者を雇用した場合などに助成が認められます。

企業が雇用している障害者の数は、2023年に約64万人を記録し、20年連続で過去最多を更新しました。
しかし、調査した企業のうち障害者の法定雇用率を達成している企業は、全体の約半分に留まっています。

障害者の雇用は法的な義務ですが、その一方で、人材不足の解消や多様性を受容する職場風土の構築、社会的責任を果たすことによる企業イメージの向上といったメリットもあります。
ハローワークなどの支援機関に相談しながら、自社に合った障害者の雇用計画を進めてみてはいかがでしょうか。

2024.03.21 (人的資源)
組織の成長には欠かせない『モチベーター』になるには

中小企業や小規模事業者では、経営者が直接、従業員を指揮するケースがあります。
従業員に的確な指示を与え、やる気を引き出すには、みずから業務を遂行する能力とは別に『人を活かす』能力が必要になります。
このように従業員のモチベーションを上げることのできる人を『モチベーター』といいます。
優秀なモチベーターがいる組織は、全体で高いパフォーマンスを発揮し、大きな成果を上げることができます。
経営者がモチベーターとなって従業員を導くには、何が必要なのでしょうか。
モチベーターになる人の資質や、逆に従業員のやる気を削いでしまう人の特徴などを解説します。
 

『働きがい』のある組織の業績が伸びている

従業員の組織に対する意識は、『働きやすさ』と『働きがい』に大別することができます。
働きやすさは労働条件や配属先、人間関係や職場環境、福利厚生などに起因するのに対し、働きがいは仕事の内容や責任、評価や達成感などに影響されます。

働きやすく働きがいのある組織は、従業員の仕事への意欲や会社への定着率も高い傾向にあります。
厚生労働省による従業員調査では、『働きやすく、働きがいのある組織』が『働きづらく、働きがいのない組織』よりも、『仕事への意欲』と『勤務継続の意向』が倍以上も高いことがわかっています。
そして、会社の業績についても、『働きやすく、働きがいのある組織』のほうがよくなる傾向にあることがわかりました。

組織の成長のためには、『働きやすさ』と『働きがい』の両方の底上げが欠かせません。
特に働きがいの有無は、組織の士気に大きく関わります。
働きがいは仕事へのモチベーションと言い換えることもできます。

組織において多くの仕事は、個人ではなくチームとして行われるものですが、一方で個人のモチベーションが高くないと、全体として望んだ以上の成果を上げることはできません。
高いモチベーションで仕事に臨むためには、指示どおりに目の前の業務をこなすのではなく、一人ひとりがその仕事を『自分ごと』として捉え、自主的に動く必要があります。
そのためには、従業員のやる気を引き出して、モチベーションを上げることのできるモチベーターの存在が必要不可欠となります。

モチベーターになるために必要なものとは

モチベーターは従業員に対する管理能力や、リーダーとしての能力に長けた人のことを指し、「従業員と目標やビジョンを共有できる」「従業員を信頼し、自主性を重んじる」「従業員が失敗してもフォローする」「個人の能力や貢献度を把握し、公平な評価を下せる」などの特徴を持ちます。
従業員にとって目標やビジョンは働く原動力になり、責任のある仕事を任されることで使命感や職業意識も生まれます。
裁量権を与えられた結果、たとえミスをしても的確なフォローをしてもらえるのであれば、思い切って仕事に取り組むことができ、会社や上司からの公平な評価は向上心の醸成にも結びつきます。
部下を鼓舞してやる気を起こさせる、いわゆる世間一般的な『理想の上司像』が、まさにモチベーターのイメージといえるのではないでしょうか。

逆に、従業員のモチベーションを下げてしまう言動をする人のことを、「ディモチベーター」や「モチベーションブレイカー」と呼びます。
たとえば、論理的に叱って諭すのではなく、感情のままに怒ったり、自身の責任から逃れたりする人、または必要なコミュニケーションを取らなかったり、偏った評価しかできなかったりする人です。
このような人は、たとえ本人の能力が高くても、従業員のモチベーションを下げ、やる気を削ぎ、組織に悪影響を与えてしまいます。
もし、自身に心当たりがあるのであれば、言動を見直し、モチベーターになるための努力をしなければいけません。

モチベーターになるためには、的確な判断を下すための論理的な思考が必要になります。
言っていることに矛盾があったり、論理が破綻していたりするのでは、従業員の信頼を得ることはできませんし、現場を混乱させることにもつながります。
論理的な思考は決断の裏付けにもなり、業務の進行をスムーズにします。
また、従業員の話に耳を傾け、的確な声かけを行うなど、コミュニケーション能力も重要です。コミュニケーションによって従業員の状態や能力を把握していなければ、公平に評価することもできません。

本人の資質によるところもありますが、組織を率いるのであれば向き不向きにかかわらず、モチベーターとしての役割を求められます。
従業員に高いモチベーションを持って仕事に取り組んでもらうためには、リーダーとしてどうあるべきなのか、よく考えてみましょう。
 

2024.03.07 (労働法)
明示ルール変更と同時に検討したい『労働条件通知書』の電子化

労働契約の締結と更新の際に事業者が行わなければいけない『労働条件明示』について、2024年4月から新たな明示事項が追加されることになります。
また、労働基準法に基づく省令の改正によって、2019年4月から労働条件通知書の電子化が解禁になりました。
今度の労働条件明示のルール変更のタイミングで、労働条件通知書の電子化を検討している事業者も多いのではないでしょうか。
どのように労働条件通知書の電子化を進めていけばよいのか、事業者が注意すべきポイントを解説します。
 

メールなどでの交付には労働者の同意が必要

労働条件通知書とは、賃金や労働時間や有給休暇など、労働者に明示しなければいけない労働契約の条件を記した書面のことで、事業者は労働者に対し、この書面を交付する義務があります。
これまでは原則として紙の書面による交付しか認められておらず、正社員はもちろん、頻繁に契約の更新が必要な非正規労働者に対しても、更新ごとに労働条件通知書を交付する必要があったため、事業者と労働者の双方にとって、労働条件通知書の交付はとても手間がかかるものでした。

そこで、事務的な負担を減らし利便性を高めるための措置として、労働基準法施行規則が改正され、2019年4月1日から書面以外の方法による交付が認められることとなりました。
具体的には、FAXや電子メール、その他メッセージの送付が可能なSNSやアプリ、クラウドサービスなどでの送付が可能となりました。
労働条件通知書の書面での交付を定めた労働基準法施行規則は、電子メールやSNSなどが存在しない1947年に作られたものなので、交付方法の追加はおよそ70年以上ぶりの改正となります。

労働条件通知書の電子化により、多くの会社で業務の効率化が図られると同時に、ペーパーレス化により、コストの削減も実現しました。
しかし、こうした労働条件通知書の電子化は便利な反面、いくつか気をつけるべきポイントがあります。

まず、労働条件通知書をFAXや電子メールなどの方法で送付する際には、必ず事前に労働者の同意を得ておく必要があります。
たとえば、自宅にFAXやパソコンなどの機器がなく、労働者がFAXや電子メールを受け取れないケースも考えられます。
労働者が希望しないのであれば、これまでと同様に書面での交付を行いましょう。

もし、労働者が電子メールを受け取れない状態にもかかわらず、電子メールで労働条件通知書を送付した場合などは、「労働条件通知書を交付した」とはいえず、法令違反になる可能性があります。
事業者の法令違反が認められた場合は、労働基準法の第120条に基づき、30万円以下の罰金が科せられる可能性があるので注意してください。

閲覧を証明できるクラウドサービスが便利

労働基準法施行規則の改正により、自社サーバーやクラウドサービスを介した労働条件通知書の交付も認められるようになりました。
従業員が少人数であれば、労働者一人ひとりに電子メールで送付するかたちでも問題はありませんが、大規模の企業の場合、電子メールの送付にも時間と手間がかかってしまいます。
そこで、労務管理の効率化を目的に、自社サーバーに労働条件通知書をアップロードし、従業員が個人的に自分の労働条件通知書を閲覧できるスタイルを採用している企業もあります。
このとき注意したいのは、個別にパスワードを設定するなどして、ほかの従業員に個人の労働条件通知書を閲覧できないようにしておくことです。
労働条件通知書は労働条件が明記された個人情報なので、取り扱いには十分気をつけましょう。

また、労働条件通知書を交付しても、労働者が閲覧していなかった場合、労務トラブルに発展することがありますので、本人に届いているかを確認することも望ましいとされています。
しかし、一人ひとりの閲覧状況を確認しようとすると、事務作業の工数が増大してしまいます。
そこで労働条件通知書の閲覧ができるクラウド型の雇用管理システムや電子契約サービスであれば、従業員がWeb上で同意ボタンをクリックすることで、閲覧と確認を行なったことが証明できます。
特に従業員が多い企業は、法務的な側面からも労働条件通知書の閲覧とその証明ができるクラウドサービスがあると便利でしょう。

ほかにも、電子化された労働条件通知書は、交付を受けた労働者が紙に印刷できるようにしておかなければいけません。
印刷用に設定したPDFファイルを電子メールに添付するケースなどは問題ありませんが、SNSやメッセージアプリの文章内にそのまま労働条件通知書の内容を記載して送る方法では、レイアウトや書式が崩れて正確に出力できず、必要な文書が途切れてしまうなど要件を満たさない可能性がありますので注意しましょう。

日本におけるスマートフォンの普及率は9割を超え、多くの人が労働条件通知書の電子化を受け入れることのできる環境にあります。
労働条件明示のルール変更は、紙で労働条件通知書の交付を行なっている事業者にとって、電子化に切り替えるよいタイミングかもしれません。
業務効率化とコスト削減のためにも、労働条件通知書の電子化を前向きに検討していきましょう。

2024.03.07 (人的資源)
人事評価の公平性を保つための『評価会議』の進め方

従業員の等級や報酬に大きな影響を及ぼす人事評価には、公平性や納得性が求められます。
人事評価は、評価者があらかじめ定められた『評価基準』に沿って行うものですが、人間が査定する以上、どうしても評価にはブレが生じてしまいます。
しかし、この評価のブレは従業員の不満の要因となるため、可能な限り取り除かなければいけません。
そこで重要になってくるのが、評価者が一堂に会して行われる『評価会議』です。
評価者による評価を調整し、最終決定を下す評価会議について、全体的な流れやポイントを説明します。
 

まずは評価会議を行う目的を理解する

組織によって人事評価の方法はさまざまですが、一定以上の規模の企業になると、評価の公平性を保つために、二人以上の評価者が査定を行うのが一般的です。
なかでも、係長や課長クラスが「1次評価者」として直属の部下の査定を行い、その上の各部署の部長クラスが「2次評価者」として、1次評価者の評価が正しく公平だったのかを確認する「2段階の人事評価」が多くの企業で行われています。

1次評価者は普段から部下と直接関与しているため、その部下の能力や働きぶり、仕事への姿勢などを把握することができますが、一方で距離が近すぎるがゆえに、正しい評価や判断ができない場合もあります。
そこで2次評価者は、より客観的な視点で1次評価者の見解に偏りがないか見極める役割を担います。

そして、1次評価者と2次評価者が下した評価を、さらに公平性を持って調整していくのが、『評価会議』です。
企業によって、評価会議は「評価調整会議」や「キャリブレーション」ともいわれています。
評価会議を経た評価は、対象従業員の最終的な評価となります。

また、評価会議には、被評価者の最終評価を決めるほかに、もう一つの目的があります。
それは、評価者の評価の軸となる『評価基準』を、ほかの評価者の基準とすり合わせ、揃えるというものです。

人事評価に用いられる評価基準には、ノルマの達成度合いや業績など、数字として示すことができる項目と、個人の能力や仕事への姿勢など、数値化のむずかしい項目があります。
数値化のむずかしい項目は、評価者の主観による評価になることも多く、どうしてもバラつきやブレが生じてしまいがちです。
評価会議は、こうしたバラつきやブレをなくすために、評価者の持つ評価基準を全員で共有し、揃えていく場でもあります。
評価基準のすり合わせをしておけば、数値化がむずかしい項目でも1次評価の段階で、より公平性が高く、納得感のある評価を下せることになります。

滞りなくスムーズに評価会議を進めるために

評価会議の参加者や進め方は企業によってさまざまで、役員が中心となって行われるケースもあれば、1次評価者が加わるケースもあります。
一般的に、従業員数が50名規模の企業であれば、1次評価者と2次評価者を加えた8〜10名の評価者による評価会議が望ましいとされています。

会議の時間は、規模や人事評価に対する考え方にもよりますが、50名規模であれば、3〜6時間くらいを目処に設定しましょう。
1次評価者でもある係長や課長自身の評価が必要な場合は、評価会議を一部と二部で分け、一部で一般従業員に対する評価会議を行い、二部では係長や課長に席を外してもらったうえで、係長や課長の評価者である部長クラスが評価会議を行います。

評価会議を進める際は、被評価者の評価結果を一覧にした評価表を用意し、評価を比較できるようにしておくとスムーズです。
その評価表をもとに、1次評価者や2次評価者がその評価を下した理由を説明し、それぞれの項目ごとに意見を出し合いながら、検証していきます。

評価の争点になりやすいのは「不自然に高い評価や低い評価」「1次評価者と2次評価者の間で乖離のある評価」「同部署や同業務の従業員同士にもかかわらず乖離している評価」などです。

円滑に評価会議を進めるためには、進行役の役割も重要です。
事前に予定表を作って参加者に共有し、滞りなく進めるようにしなければいけません。
また、会議ではディスカッションを経て最終評価が決まるため、活発な意見交換が行われるよう参加者に発言してもらうことを意識しておきましょう。

自社の従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上に、人事評価は重要です。
その人事評価に納得感と満足感を得られるようにするためにも、しっかりと意見をすり合わせ、調整する評価会議を執り行うようにしましょう。

2024.02.22 (労働法)
『法定休暇』と『特別休暇』の違いを理解しておく
従業員の休暇には、労働法で定められた『法定休暇』と、その企業が独自に設ける『特別休暇』があります。
年次有給休暇などを筆頭とした法定休暇は、従業員の求めに応じて、必ず与えなければいけない休暇です。
したがって、事業者は法定休暇についての付与日数や要件などを正しく理解しておく必要があります。
一方、特別休暇は必ず従業員に与えなければいけないものではありませんが、福利厚生の一環として導入している企業が少なくありません。
法定休暇と特別休暇の種類や日数、取得できる従業員の要件などを説明します。

日数や要件が決められている法定休暇

法定休暇には、年次有給休暇、産前産後休業、生理休暇、育児休業、介護休業、子の看護休暇などの種類があります。
事業者は従業員に対して、これらの休暇(休業)を付与する義務があり、休暇の取得に必要な要件を満たしているにもかかわらず、休暇を与えなかった場合は法令違反となります。

年次有給休暇は、雇用した日から6カ月間継続して勤務し、所定労働日の8割以上出勤した従業員に付与する休暇のことで、付与する休暇の日数は勤続期間に応じて増えていきます。
勤続期間が6カ月の場合、年次有給休暇の付与日数は年10日です。
その後、1年6カ月で年11日、2年6カ月で年12日といった具合に増えていき、勤続期間が6年6カ月の従業員には、年20日の年次有給休暇を付与します。
また、正社員だけでなく、パートやアルバイトなど、週の所定労働時間が30時間未満で、週の所定労働日が4日以下(週以外の期間によって所定労働日を定める労働者は、年間の所定労働日数が216日以下)の従業員に対しても、規定に沿った労働日数の年次有給休暇を与えなければいけません。

年次有給休暇のほかに労働基準法では、第65条に産前産後休業、第68条に生理休暇も法定休暇と定めています。
産前産後休業と生理休暇はどちらも女性従業員を対象とした休業です。
産前休業は、当事者である女性従業員から請求があった場合、出産予定日をベースに、産前6週間(多胎妊娠は14週間)の休業を付与します。
産後休業は女性従業員からの請求がなくても、原則産後8週間の休業を付与する必要があります。

生理休暇は、生理に伴う体調不良などによって、就業が著しく困難な女性従業員に付与する休暇のことです。
原則として、女性従業員からの求めがあった場合には、就業が著しく困難である証明がなくても、休暇を付与する必要があります。
日数に関しては、生理による苦痛や就業できる程度は個人差があるため、企業側で決めることはできません。

育児休業、介護休業、子の看護休暇は、『育児・介護休業法』によって定められた法定休暇です。
育児休業は、原則として1歳未満の子どもを養育するための休業で、男女ともに求めに応じ、分割で取得させることが可能です。
介護休業は、要介護状態(負傷・疾病または身体上や精神上の障害により、2週間以上の期間に渡り常時介護が必要な状態)の家族がいる従業員を対象とした休業で、対象家族が一人の場合は年5日、二人の場合は年10日まで取得させなければいけません。
子の看護休暇は、小学校就学前の子どもを看護するための休暇で、従業員の求めに応じて、年5日(二人以上は年10日)まで取得させる必要があります。

特別休暇を設ける際に注意しておきたいこと

法律で定められている法定休暇に対し、特別休暇はその企業が独自に定めるものなので、取得の要件や日数などの制限はありません。
一般的な特別休暇は、慶弔休暇、病気休暇、夏季休暇、冬季休暇などがあり、厚生労働省が公表した『令和4年就労条件総合調査の概況』によると、何かしらの特別休暇を設けている企業の割合は58.9%でした。

慶弔休暇は、従業員本人の結婚や、親族の忌引きの際に付与する休暇で、取得日数は通常1日〜5日ほどに設定されています。
病気休暇は、病気になった従業員の通院や入院のための休暇で、休暇中は無給とするのが一般的です。

夏季休暇や冬季休暇は、多くの企業が採用している特別休暇で、夏季はお盆の8月中旬に付与するケースが多く、日数は3〜5日ほどになります。
冬季は年末年始の前後に付与することがほとんどで、土日祝日と組み合わせることで、5日〜9日ほどの休暇を実現している企業もあります。

このほかにも、特別休暇には、誕生日休暇やリフレッシュ休暇、ボランティア休暇などの種類があります。
特別休暇の付与は義務ではなく、日数や有給・無給も事業主が自由に決めることができます。
福利厚生として導入すれば、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
ただし、取得の要件や対象者の範囲などがあいまいだと労使トラブルに発展する可能性もあるため、取得のルールや申請手続きを明確にしたうえで、就業規則に記載し、全従業員に周知することが重要です。

まずは、法定休暇の種類や要件についてしっかり把握し、適切に従業員に取得してもらえるように企業として注意しておきましょう。
そのうえで、特別休暇を設けるのであれば、どのような休暇が自社の福利厚生として適しているのか、制度の設計と共に考えてみましょう。

2024.02.22 (人的資源)
その暴露が損害賠償請求に! 職場の『アウティング』に要注意

個人の性自認や性的指向を第三者が許可なく他人に暴露する行為のことを『アウティング』といいます。
アウティングは人権侵害の一つであり、条例で禁止する自治体も増えています。
しかし、アウティングと認識される言動の範囲や、それらはパワハラと判断されるものであるということが、社会に浸透しているとはまだまだいえません。
職場でアウティングが起きた場合、事業者は使用者責任を問われ、損害賠償請求まで発展する可能性もあります。
アウティングを防ぐための方法と、アウティングが起きてしまった場合の対応策を考えます。
 

アウティングはパワハラ防止法で禁止に

2022年3月、都内の保険代理店に勤めていた男性が精神疾患を発症した原因は、職場で同意なく上司に個人の性的指向を暴露されたアウティングにあるとして、労働基準監督署は労災を認定しました。
アウティング被害による労災認定は、全国でも初のことです。

個人の性自認や性的指向は、本人の意思で選択したり、矯正したりできるものではなく、その人の尊厳に大きく関わるものです。
特に、性的少数者であるLGBTQ(※)への理解が完全に浸透したとはいえない日本の社会のなかで、性的マイノリティの性自認や性的指向は、非常にセンシティブな個人情報になります。
したがって、本人の同意なく、第三者がその人の性自認や性的指向を暴露してはいけません。
※LGBTQ(エルジービーティーキュー)…Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性別が異なる人)、Queer/Questioning(クイア/クエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称のひとつ

2019年5月に成立した改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、職場におけるハラスメントを禁止。
2020年6月からは大企業、2022年4月からは中小企業でもパワハラ対策が義務付けられました。
この法律に関連した『令和2年厚生労働省告示第5号』では、「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」が、ハラスメント行為として記載されています。

また、アウティングをはじめ、性的指向や性自認に関連した差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力、嫌がらせなどのことを、性的指向の「SO(Sexual Orientation)」と、性自認の「GI(Gender Identity)」の頭文字をとり、SOGI(ソジ)ハラスメントと呼びます。
SOGIハラもパワハラ防止法の対象となり、事業者はパワハラやセクハラなどと同様に、SOGIハラを防ぐための措置を講じる必要があります。

防止策の徹底と発生時の調査が事業者の責務

本人の意図していないところで、性自認や性的指向が第三者に知られてしまうと、当事者が安心して働けなくなってしまい、場合によっては就労の継続がむずかしくなる可能性もあります。
こうした事態を防ぐためにも、事業者はアウティングが起きないような環境や体制を整えていかなければいけません。

パワハラ防止法では、ハラスメント対策のための相談窓口の設置、窓口があることの従業員への周知、相談窓口の担当者が適切に対応できるようにするための研修実施といった措置が事業者の義務とされています。
しかし、アウティングやLGBTQなどに関する相談については、対応が不十分なケースが多々見受けられます。
相談窓口を担当する人事担当や役員は、SOGIハラ、アウティングについての知識を深めると同時に、これらについての相談も受け付けていることを、従業員に対して周知していく必要があります。

また、ハラスメント研修などで、他人の性自認や性的指向の暴露がハラスメントに該当する行為であることを学んでもらい、就業規則にもアウティングがハラスメントである旨を記載しておくことが重要です。
これらの対策を怠った結果、職場でアウティングが起きてしまうと、事業者は職場環境配慮義務に違反したとして、アウティング被害を受けた従業員に対して直接的に、損害賠償責任を負う可能性もあります。

もし、対策をしていてもアウティングが起きてしまった場合は、迅速な対処が求められます。
まずは被害者へ聞き取りを行い、アウティングがいつ起きたのか状況や内容、当事者が誰か、心身に不調はないかなどを確認しましょう。

続いて、加害者にもヒアリングし、被害者から聞いた内容とすり合わせます。
もし双方で認識の違いがある、または客観的な事実が把握しづらいような場合は、アウティングを見聞きしていた別の従業員に対しても聞き取り調査を行い、事実関係を明確にしておきます。
また、これらの調査そのものが被害者の性自認や性的指向を広めることにならないように、調査対象者に念書を書かせるなど、聞き取り内容を漏らさないための対応が必要です。

実際にアウティングが起きていたことを把握したら、被害者の希望に応じて、配置転換や謝罪の場を設けるなどの対応を検討します。
再発しないよう、加害者への十分な注意指導も忘れてはいけません。
重要なのは、事業者がアウティングの加害者を正式に処分したという事実です。
懲戒処分など必要以上に重い処分は被害者と加害者の間でトラブルになりかねないので注意しましょう。

自分の性自認や性的指向を他人に伝えることを「カミングアウト」といいます。
もし、性的マイノリティの当事者からカミングアウトを受けた場合は、よく話を聞き、誰にどこまで伝えていいのか、確認しておくとよいでしょう。
人事担当者や役員であれば、カミングアウトを受けなくても、職務上、個人の性自認や性的指向を知ってしまうケースもあります。
性自認や性的指向はプライバシーに関わる重要な個人情報であることを認識し、厳重に扱うことが大切です。

2024.02.08 (労働法)
『130万円の壁』、条件つきで2年間は扶養のままってホント?

日本では労働の中心を担う生産年齢人口が減り続けており、各企業でも労働力の確保が大きな課題となっています。
そこで、政府は企業の人手不足の解消を目的に、『130万円の壁』への対策を打ち出しました。
130万円の壁とは、100人以下の企業で働いている被扶養者の年収が130万円を超えてしまうと扶養から外れ、自身が国民年金や国民健康保険料に加入しなければならなくなることを指します。結果として、手取りが減ってしまいます。
2023年10月からは、被扶養者が働く時間を抑えることがないよう、130万円を超えても扶養から外れないようにする「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」がスタートしました。
被扶養者を雇用している事業主に必要な対応を把握しておきましょう。
 

130万円の壁の問題になっているポイント

厚生年金や健康保険に加入している配偶者等の扶養に入っている「被扶養者」は、社会保険料を支払わなくても、保険診療を受けたり、年金を受給したりすることができます。
しかし、被扶養者がパートやアルバイトとして働いた場合に、一定の年収を超えると、扶養から外れてしまうことがあります。
扶養から外れると、被扶養者ではなくなり、みずから社会保険料を支払わなければいけません。
扶養から外れてしまう要件はさまざまありますが、これまで特に問題視されていたのが130万円の壁でした。

従業員100人以下の企業で働くパートやアルバイトなどの被扶養者が年収130万円を超えると、配偶者等の扶養から外れ、自身の勤務先の社会保険に加入するか、国民健康保険や国民年金に加入しなければいけません。
国民健康保険の保険料は、前年度の所得や自治体によって異なりますが、国民年金の保険料は月額16,520円で、それらが給与から引かれるため、手取りが130万円から減ってしまうことになります。
扶養から外れて手取りを減らさないために、130万円を超えないように働く被扶養者が大多数です。

人手不足や繁忙期の企業では、被扶養者であるパートやアルバイトに働く時間を増やしてもらいたいところですが、被扶養者としては労働時間を調整して、収入が上がるのを避けなければなりません。
結果として事業主は、長時間で働けない被扶養者の代わりに正社員の労働時間を調整したり、新たな人材を確保したりといった負担がかかることになります。

こうした問題を解消するために、政府は130万円の壁などを意識せずに働くことができる措置を講じました。
その一つが、『事業主の証明による被扶養者認定の円滑化』です。

この取り組みは、被扶養者の年収が130万円を一時的に超えても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることができるというものです。
これまでも過去の給与などに基づき、一時的に130万円を超えても、過去の課税証明書や給与明細書を提出することで、扶養から外れないようにすることはできました。しかし、今回の施策によって、より簡単に被扶養者が扶養に留まることができるようになります。

一時的なら130万円超えも場合により2年まで扶養に

今回の措置では、事業主が一時的な収入増であることを証明することで、被扶養者は年収が130万円を超えても、連続して2年間(年1回の収入確認をする場合)は引き続き配偶者等の扶養に入ることができます。

ただし、注意したいのは、あくまで収入増が一時的なものであるということです。
人手不足や仕事量の増加によって、労働時間を延長することになった場合など、扶養に留まれるのは、一時的な収入変動に限定されます。
たとえば、被扶養者の基本給の額を上げたり、手当を増やしたりすることによる収入増は、措置の対象になりません。
ほかにも、被扶養者が同一世帯に属した被保険者の収入を上回っている場合は、扶養から外れることになるので注意が必要です。

事業主の証明による被扶養者認定の円滑化で必要となる証明書は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。
事業主の欄に必要事項を記入し、必要な被扶養者に渡しましょう。

また、政府は「130万円の壁」以外に「106万円の壁」の問題についても、対策を打ち出しています。
106万円の壁とは、従業員101人以上の企業で被扶養者の年収が106万円を超えると、厚生年金や健康保険に加入する必要があり、手取りが減ってしまう状況のことを指します。
政府は、2023年10月20日よりキャリアアップ助成金『社会保険適用時処遇改善コース』の手続きを開始、被扶養者の手取りを減らさない取り組みを行なった事業者に、労働者一人当たり最大50万円の助成を行うことを発表しました。

こうした「年収の壁」への措置は、2025年に予定されている年金制度改正までの暫定的なものとなります。
今後、政府が年収の壁の問題にどのように対応するのか、注視していきましょう。

2024.02.08 (人的資源)
採用面接で応募者の適性や対応力を見極めるために有効な質問は?

求職者からの応募を獲得した後の採用のプロセスは、エントリーシートや履歴書などによる書類選考後、面接を行うのが一般的です。
企業の規模や募集内容によっても異なりますが、面接の回数は新卒採用であれば3〜5回、中途採用では1〜3回とされています。
採用担当者は複数回の面接のなかで、応募者が自社に合致する人物かどうかを見極めなければいけません。
そのために用意しておきたいのが、応募者の人柄や能力を知るための質問です。
どのような質問をすれば、採用のミスマッチを防ぐことができるのか、紹介していきます。
 

序盤・中盤・終盤に分けて質問を考える

採用面接では、自社の社風とマッチするのか、その人の持っているスキルや経験を自社の業務に活かせるのかなど、さまざまな観点から応募者を総合的に評価し、採用の可否を決める必要があります。
もし、面接で誤った判断をして、自社に合わない人材を採用してしまうと、早期離職や作業効率の低下などを招いてしまうことになります。
こうした会社と応募者の不一致を防ぎ、双方にとってよい結果を生むためには、面接官が応募者の価値観や人柄、能力を見極める質問をすることが大切です。

面接時間は、平均して30分から1時間ほどといわれており、このなかで時間配分に気をつけながら、面接官は質問をしていくことになります。

通常は面接の序盤に「自己紹介」や「志望動機」など、基本的なことを聞きます。
中途採用であれば、これまでの「職務」や「実績」、新卒採用であれば、高校・専門学校・大学などで「学んだこと」や「取り組んだこと」などを聞くとよいでしょう。

面接の中盤には、応募者もリラックスしてくるため、その人の人間性が垣間見えるような質問をするのが効果的です。
たとえば、「取り組んでみたい仕事」や「将来的なビジョン」、「モチベーションが上がる瞬間」などの質問は、その人の仕事に対する適性や考え方が見えてきます。「趣味」や「好きな時間」、「自分の短所・長所」や「友人からの評価」などの質問は、その人の性格や人柄を確認することができます。

また、面接が終わりに近づいた終盤には、「通勤時間」や「残業」など条件面に関する質問を行うと同時に、応募者からの逆質問を受け付ける時間に充てます。
序盤と中盤に聞き逃したことや、気になった部分を確認してもよいでしょう。

ユニークな質問で応募者の対応力を測る

面接は応募者と直接話ができる貴重な時間のため、聞きたいことや確認したいことが多くなりがちです。
限られた時間のなかで必要な情報を聞き出し、伝えるためにもあらかじめ質問の数を絞っておく必要があります。
ただし、面接採用における質問は、あくまで応募者が自社にマッチするのか見極めるためのものだと念頭に置いて作成しましょう。

厚生労働省では「採用選考の基本的な考え方」として、応募者の人権を尊重し、適性や能力に基づいた基準で選考を行うように求めています。
「恋人の有無」や「家族構成」、「家庭環境」などは、ただの面接官の興味本位に過ぎず、その人の適性や能力を判断するものではありません。
また、「尊敬する人物」や「購読している新聞」なども、一見問題ない質問に思えますが、個人の思想や信条に関わるものであり、その人の適性や能力には無関係であるため、不適切な質問とされています。

応募者の適性や能力を確認するために、企業によっては、少し変わった質問をするところもあります。
よく知られているのは、外資系やコンサル系、金融系などで採用されている『フェルミ推定』です。
フェルミ推定は「日本にあるマンホールの数は?」や「家庭で使われるトイレットペーパーの合計の長さは?」など、正確な答えが把握しづらい数値を、論理的に考察してもらう質問です。
答えよりも、数値を推察するプロセスが重要視され、応募者の考える力や対応力などを見極めることができます。

また、フェルミ推定のような突飛な質問ではなくても、たとえば「自分を動物に例えると?」や「もし無人島に何でも一つだけ持っていけるとしたら?」「自分にキャッチコピーをつけるなら?」といったユニークな質問で、応募者の発想力や対応力、自己分析力などを確認する企業もあります。
そのようなユニークな質問をあえて面接の序盤に行うことは、応募者の緊張を解きほぐす「アイスブレイク」としても有用です。

採用面接では基本的な質問も大切ですが、フェルミ推定をはじめ、こうした変化球の質問も状況によっては応募者の適性を判断する材料として多く使われています。
自社にマッチする人材を獲得するためには、どういった質問をすればよいのか、どんな質問が効果的なのか、採用担当者は常日頃から考えておきましょう。

2024.01.18 (労働法)
フリーランスの『労災』はどうなる? 特別加入の対象が拡大か

一人でも労働者を雇用する事業主は、業種や規模にかかわらず、労災保険に加入する必要があります。
労災保険は正式名称を『労働者災害補償保険』といい、業務上の事由や通勤中に起きたケガや病気、死亡などに対して、給付などの補償が行われます。
この労災保険は原則として労働者を保護するものですが、一部の事業主やフリーランスとして働く個人事業主は特別加入制度により、任意での加入が認められていました。
この特別加入制度の対象の範囲が大幅に拡大する可能性があります。
労災の現状と今後の見通しについて、考えていきます。
 

労働者かフリーランスかは労働者性で判断

労災保険は労働者を使用する事業を適用事業とし、補償の対象となるのは、正社員や契約社員、パートやアルバイトなど、職種や雇用形態を問わず、すべての労働者と定められています。
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づく公的保険で、原則的には雇用されている労働者を保護するための制度です。
したがって、事業または事務所に使用されておらず、労働者ではない事業主や会社役員などは、労災保険による補償の対象にはなりません。

また、事業者と「業務委託」や「業務請負」などの契約を結んで働くフリーランスなども、労災保険の対象外になります。
特定の業務に対して事業者側から報酬を受け取る業務委託契約や業務請負契約は、雇用契約ではないため、業務中にケガや病気をしても補償を受けることはできません。

しかし、2023年11月、ネット通販大手『アマゾン』の配達業務に就いていたフリーランスの運転手が配達中に負ったケガに対し、管轄の労働基準監督署は『労災』を認定しました。
運転手はアマゾンの配送を取り扱う運送会社と業務委託契約を結んでいたフリーランスであるにもかかわらず、労基署が労働者とみなしたことになります。

労働基準法では、労働者に該当するか否かの判断基準を『労働者性』といい、たとえ形式上は業務委託契約であったとしても、労働者性があれば労働者と認められる場合があります。
そして、この労働者性を見極める主なポイントは、他人の指揮監督下にあるかどうかと、指揮監督下における労働の対価として報酬が支払われているかどうかの二つになります(使用従属性)。
たとえば、フリーランスであっても勤務場所や勤務時間が拘束されていたり、業務の拒否権がなかったりすると、指揮監督下にあるとされ、労働者性が高いことになります。
この使用従属性については、明確な基準に基づき画一的に判断されるわけではなく、個々の事案ごとに総合的に判断される点に注意が必要です。

先の運転手は、アマゾンと運送会社にアプリを通じて配達先や労働時間が管理されており、両社の指揮監督下にあると判断されました。
つまり、独立したフリーランスでありながら、実質的に雇用された労働者と同等の働き方になっていたことから、労災が認められたことになります。

すべてのフリーランス対象の特別加入制度

フリーランスである運転手の労災が認められた一件は、同様の働き方を行うフリーランスの保護につながるという見方があります。
フリーランスとは、自身で事業等を営んでいる特定受託業務従事者で、従業員を雇用しておらず、実店舗を持たない人のことを指します。

多様な働き方が重んじられる現代において、さらにコロナ禍を経たことにより、フリーランスとして働く人の数は飛躍的に増えています。
そのようななか、同じ企業から継続的に業務の委託を受けるなど、労働者に近い働き方をしているフリーランスも多いのが現状です。
厚生労働省ではこうした現状をふまえ、これまで一部のフリーランスしか加入することができなかった『特別加入制度』の対象範囲の拡大・運用を検討しています

特別加入制度とは、その業務の実情や災害の発生状況などから、労働者ではなくても、労働者に準じて保護する必要がある中小事業主や一人親方、特定作業従事者、海外派遣者、一部の個人事業主の加入を認める制度のことです。
これまで何度か特別加入の対象の拡大が行われており、2021年にはフリーランスでもITフリーランスや自転車を使用して貨物運送事業を行う者、芸能関係作業従事者など、一部の業種で特別加入が認められました。

内閣府の調査によると、現在のフリーランスの数は本業と副業を合わせて約462万人という試算が出ています。
特別加入制度の範囲が拡大されることで、これらすべてのフリーランスにとって新たなセーフティーネットができることになります。
具体的にどのような制度になるのかなど、フリーランスは今後の行方を注視していく必要があります。

2024.01.18 (人的資源)
エンゲージメントが高まり、組織を成長させる『D&I』の効果

性別や国籍、世代や障害の有無など、さまざまな違いを受け入れ、組織のなかで活かすことを『ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)』といいます。
多くの企業が取り組んでいるD&Iは、組織を成長させると同時に、従業員のエンゲージメントを高めるといわれています。
これからの企業経営にとって無視することのできない D&Iのメリットや導入方法について説明します。

SDGsの実現に欠かせないD&I

D&Iは、多様性を意味する『ダイバーシティ』と、受容性を意味する『インクルージョン』をかけあわせた造語で、特に近年は組織づくりに欠かせない概念となりつつあります。

2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された『SDGs』は日本でもすでに定着し、多くの企業がSDGsの実現に向けて、さまざまな取り組みを行なっています。
日本語で「持続可能な開発目標」と訳されるSDGsは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)持続可能でよりよい社会を実現する」という理念のもと、世界中の貧困や環境、差別などに関する課題を2030年までに解決することを目標としています。

SDGsを推進している企業においては「leave no one behind」を実現するために、多様な人材を受け入れるD&Iを標榜とした組織づくりが重要になります。
D&Iを掲げているにもかかわらず、女性役員が少なかったり、障害者の活躍できる場がなかったりする企業は、主張と実情が伴っていないことになります。

SDGsを推進し、D&I経営に取り組むのであれば、性別や国籍、世代や障害の有無など、さまざまな属性の人たちを雇用しながら、それぞれの従業員の能力を活かせるような取り組みを行なっていかなければいけません。

たとえば、女性従業員の管理職への登用や、LGBTQへの配慮もD&Iの取り組みの一つです。
障害者や高齢者の雇用枠の拡大や、外国人労働者が力を発揮できるような環境の整備も、D&Iにおいては重要な施策といえます。

D&Iが組織にもたらすイノベーション

多様な属性の従業員が個々の能力を活かすD&Iは、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。

一つに、新しい発想やアイデアの創出があります。
異なる属性を持つ人たちが集まるということは、異なる知識や経験、価値観や能力が集まるということでもあります。
一つの属性の人たちだけの組織のことを、『同質性の高い組織』といいます。
同質性の高い組織は、考え方や価値観が近い人の多い組織という特性上、スムーズな共有が行われ、対立が起きづらいというメリットがあります。
しかしその一方で、同質性が高くなるほど思わぬ変化に対応できないというデメリットがあります。
変化のスピードが早い現代においては、その変化に対応できるような属性の多様性が欠かせません。
たとえば、ベテラン従業員のなかに若手従業員が加わると、新しいアイデアが生まれることがあります。
実際に、男性だけで行なってきたプロジェクトに女性が参加したことで、女性ならではの新たな視点が加わり、プロジェクトを進めることができたという事例もあります。

また、ユニバーサルデザインを考えるうえで、障害者や高齢者の意見が必要になることもあります。
外国人労働者ならではの発想が、これまでの慣習を変えることもあるでしょう。
固定概念を打ち破るような発想やアイデアは、同質性の高い組織ではなく、むしろ異質性の高い組織から生まれます。

いかにD&Iを推し進めていくか

さまざまな属性の人たちが多様な価値観を認め合うD&Iは、組織内の信頼関係の構築にも役立ち、従業員の定着率の向上も期待できます。
D&Iに取り組んでいる企業ということで対外的な評価も高まり、採用の現場でも有利に働くでしょう。
しかし、ただD&Iを掲げているだけで、実体が伴わない企業も少なくありません。
大切なのは、いかにD&Iを組織のなかに落とし込み、具体的な取り組みを行なっていくか、ということです。

そのためには、経営陣がD&Iを理解し、経営戦略に具体的な施策を組み込んでいく必要があります。
まずは、多様な人材が活躍できる仕組みになるような、人事評価制度の見直しを行わなければいけません。
性的指向や性自認に関する差別禁止を明文化するためには、就業規則に明記するなどの変更が必要になります。
経営戦略に沿って、従業員へのヒアリングなども行いながら、D&Iを実現するための体制づくりや制度化を積極的に進めていきましょう。

また、こうした職場環境の整備と同時に、従業員への周知や理解も求めていかなければいけません。
なぜ組織としてD&Iが大切なのか、多様性とはどういうことなのかについて研修や勉強会などを開き、従業員の意識改革を行うことが、D&Iの推進になります。
それは、ひいては組織の成長にもつながります。
自社のイノベーションを生み出すためにも、組織全体でD&Iを推し進めていきましょう。

2024.01.04 (労働法)
労働基準法に基づく賃金支払いの『五原則』と『非常時払』とは

労働基準法は、労働条件に関するさまざまなルールを定めた法律で、使用者も労働者も双方がよくその中身を理解しておかなければいけません。
なかでも特に重要なのが、賃金支払いに関する決まりです。
労働基準法では、労働の対価である賃金の支払い方法が細かく規定されています。
もし、この規定を守らずに賃金の支払いを行うと、労働基準法違反となり、労働基準監督署から調査を受ける可能性があります。
賃金支払いにおいて知っておくべき『五原則』と『非常時払』を説明します。
 

労働者の生活を守ることが目的

労働基準法における賃金とは、給料や手当や賞与なども含め、労働の対価として使用者から労働者に支払われるものすべてと定められています。
就業規則などであらかじめ明確に定められているボーナスや退職金も、すべて労働の対価として支払われるため、賃金に該当します。

労働基準法第24条ではこの賃金の支払いについて定めており、使用者は、「通貨」で「直接労働者」に「全額」を「毎月1回以上」は「一定の期日を定めて」支払う必要があります。
この5つの定めを『賃金支払の五原則』と呼びます。

このような五原則が定められている理由はすべて、労働条件は労働者が人としての生活を営むための必要を充たすべきものであり、労働者がそのために不利益をこうむらないようにするためです。

たとえば、賃金は通貨で支払うように定めています(通貨払の原則)。
これは、価格が不明瞭で現金化も困難な現物(会社の商品など)での支給を禁止し、労働者が安心して賃金を受け取れるようにするためです。
ただし、労働協約で定めた場合は通貨ではなく現物での支給も可能とされています。
ちなみに、日本における通貨とは日本銀行券のことなので、ドルなどの外国通貨での支払いや、自社の商品券、銀行振出自己宛小切手などでの支払いも認められていません。

また、使用者が賃金を労働者に直接支払わなければならないという直接払の原則は、第三者による中間搾取を排除するためであり、全額を支払わなければならないという全額払の原則は必要以上の控除を防止し、労働者の生活の安定を図るという理由があります。
たとえば、労働者の代理人に賃金を支払ったり、積立金などの名目で賃金から一部を差し引いたりしてはいけません。
ただし、所得税の源泉徴収など公益上の必要があるものや、事理明白なものなどは一部控除することが認められています。

毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うという原則も、支払い期日の間隔が開いたり、支払日が不安定になったりすることで、労働者の生活が立ち行かなくなることを防ぐための規定です。
会社の資金繰りが苦しいなどの理由で、今月は賃金を支払わず、来月に2カ月分の賃金を支払うといった行為や「毎月中旬」や「毎月第1月曜日」というような不明瞭な定めは認められていません。

労働者のピンチを助ける非常時払とは

一方で、労働基準法に定められた「毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う原則」には、賃金の『非常時払』という例外があります。

労働基準法第25条では、労働者もしくは労働者の収入によって生計を維持する者が、出産や疾病、災害などの非常時の費用に充てる場合の請求に限り、通常の支払い期日を繰り上げて賃金を支払うように定めています。
この「非常時」にはほかにも、労働者が結婚する場合や、死亡した場合、やむを得ない事由により1週間以上帰郷する場合などが含まれます。
ちなみに、労働者の収入によって生計を維持する者とは、実質的に労働者の収入がなければ生活できない人のことを指すため、家族ではない同居人など、親族以外でも該当することがあります。

もし、労働者から非常時払を求められた場合、使用者はこれに応じて、給与の支払日前であったとしても賃金を支払う義務があります。
ただし、支払う必要がある賃金は、労働者がすでに労務の提供を終えていて、かつ未払いになっている労働分です。
月給制であれば、労働者が労務を提供した日から、実際に請求を受けて支払う日までを日割りで計算して、非常時払を行う賃金を算出します。

労働基準法で非常時払の支払い期日は定められていませんが、労働者が非常時に必要になるお金という性質上、できるだけ早く支払うのが望ましいでしょう。

賃金支払の五原則を守らないと、労働基準法違反になります。
同様に、非常時払に対応しなかった場合も労働基準法違反となり、いずれのケースでも使用者は30万円以下の罰金に処される場合があります。
さらに、非常時払に対応しなかったことで労働者に損害が出た場合は、損害賠償請求をされる可能性もあるので注意してください。

会社にとって従業員は大切な人的資源です。
従業員が安心して生活できるように賃金支払の五原則を遵守することはもちろんですが、従業員の非常事態に迅速に非常時払ができるように安定した経営活動に努めましょう。

2024.01.04 (人的資源)
ハローワークで『就職氷河期世代』に限定した求人を出すメリット

バブル崩壊後の雇用環境が厳しい時期に就職活動を行なった世代のことを、『就職氷河期世代』と呼びます。
具体的には、1990〜2000年代に就職活動を行なった30代後半から50代前半(2024年時点)の人たちのことです。
この世代には、正規雇用労働者として就職できないまま、今も不本意な形で就労を続けている人が少なくありません。
ハローワークでは、こうした就職氷河期世代の正社員雇用を推進しており、この世代に限定した求人を開拓するなどの取り組みを実施しています。
就職氷河期世代の特徴を紐解きながら、企業がこの世代を雇用するメリットを考えます。
 

当時の若者が苦しんだバブル崩壊後の就職難

好景気に沸いたバブルが1991年に崩壊し、その年から1993年頃まで株価や地価が急落しました。
バブル崩壊後の日本は長期の不況に陥り、多くの企業が人件費削減のために新卒採用の枠を削減しました。
こうして、バブル崩壊後の1990〜2000年代までの約10年間は就職難が続き、いわゆる『就職氷河期』が訪れたのです。
有効求人倍率は下がり続け、1999年には平均0.48倍にまで下落しました。
バブル期に超売り手市場だった採用の現場は、一転して超買い手市場となり、わずかな求人に応募者が殺到する事態が頻発しました。

この就職氷河期に就職活動を行なった世代は、正規雇用など希望する就職が叶わず、現在も非正規労働者として働く人が多くいます。
そこで現在、国の主導により就職氷河期世代の正社員雇用を推進し、活躍の場を広げていくための取り組みが行なわれているのです。
特にハローワークでは、就職氷河期世代に限定した求人や、その世代を歓迎する求人の積極的な開拓を実施しています。
2022年度に全国の事業者からハローワークに寄せられたこれらの『氷河期求人』は約23万件にもなり、そのうち約2万2,000件の就職が実現しました。
2022年度に就職氷河期世代がマッチングした職種は、多い順に、施設介護員(2,321件)、貨物自動車運転手(1,056件)、総合事務員(817件)となっています。

このように、就職氷河期世代の正社員雇用が多く実現した理由の一つに、特例措置の創設がありました。
通常、労働者の募集や採用に対して年齢制限を設けることは法令で禁止されています。
しかし、就職氷河期世代で正社員雇用の機会に恵まれなかった人を募集する場合は、特例措置が認められています。
2024年度末までは、ハローワークへの求人申込みを前提に、自社のホームページや民間の求人媒体などで、就職氷河期世代に限定した求人を出すことが可能です。
ただし、特例措置が認められる就職氷河期世代は、1968年4月2日から1988年4月1日までの間に生まれた人に限られるので、注意しましょう。

さらに、ハローワークでは就職氷河期世代を採用する事業者に向けて、雇い入れる際の留意事項の相談受付や、就職後の定着に向けた支援なども行なっています。

経験豊かな人材を即戦力として雇用できる

国が推し進める就職氷河期世代の正社員雇用は、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
就職氷河期世代を雇い入れるメリットとしてあげられるのは、豊富な経験を持つ人材を即戦力として雇用できるという点です。

社会経験や人生経験が豊かな就職氷河期世代は、仕事を安定してこなせる人が多いといわれており、異業種からの転職であれば、組織に新しい考え方や発想を持ち込む存在にもなります。
また、就職氷河期世代が新しい仕事にチャレンジする姿は若手従業員によい刺激を与え、組織の一体感や士気も高まるでしょう。

人手不足になりがちな中堅層の補強としても、就職氷河期世代は最適です。若手世代とベテラン世代の橋渡しの役割も期待できます。
高齢者が多い職場では若返りにもつながり、本人の能力や頑張り次第では会社をけん引する中心社員に成長する可能性も秘めています。

さらに、就職氷河期世代のなかでも若手の人々は、10代後半から20代前半にかけて、新しく登場したインターネットや携帯電話に触れてきた世代でもあるため、最新のWeb技術やサービスに抵抗がないのも強みでしょう。

ほかにも、国の就職氷河期世代の支援策の一環として用意されている『トライアル雇用助成金』や『特定求職者雇用開発助成金』、『人材開発支援助成金』、『キャリアアップ助成金』など、就職氷河期世代を雇用することで、さまざまな助成金制度を活用できるのもメリットです。
こうした助成金の相談もハローワークで受け付けています。

就職氷河期世代のなかには、非正規労働者として働いている期間が長いために、経験不足やスキル不足を疑われてしまう人もいます。
しかし、そうした人たちのなかにこそ高い能力を持った優秀な人材が大勢います。
人手不足が加速する今、採用担当者は就職氷河期世代の雇用を真剣に考えてみてはいかがでしょうか。

2023.12.21 (労働法)
2024年4月から引き上げられる『障害者法定雇用率』とは

障害を持った人が一般の労働者と同じような雇用の機会を得ることができるよう、『障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)』に基づく『障害者雇用率制度』により、一定の規模の企業には障害者の雇用が義務づけられています。
対象となる企業は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を一定の割合以上にする必要があります。
この割合のことを『法定雇用率』といいます。法改正により、この法定雇用率が2024年4月から、段階的に引き上げられることになりました。
施行前に、必要となる対応を確認しておきましょう。
 

障害者を1人以上雇用する企業の範囲が拡大

障害の有無に関係なく、すべての人が希望や能力に応じて働くことができる社会を実現するという理念のもと、障害者雇用促進法によって、従業員が一定数以上の規模の企業に一定の割合以上で障害者を雇用する義務が課せられています。

障害者を雇用する割合となる法定雇用率は、これまで度々引き上げられてきました。
1998年に1.8%、2013年に2%、2018年に2.2%、そして2021年には2.3%に引き上げられています。
現行の2.3%という法定雇用率は、従業員を43.5人以上雇用している企業は障害者を1人以上雇用することになる割合です。

そして、障害者の雇用をさらに確保するために、障害者雇用促進法に関する政省令の改正が行われ、法定雇用率の段階的な引き上げが決定しました。
2024年4月より現行の2.3%から2.5%に、2026年7月からは2.7%の法定雇用率に引き上げられます。

この引き上げにより、障害者を1人以上雇用する必要のある企業の範囲が、2024年4月から従業員40人以上、2026年7月から従業員37.5人以上に広がることになります。
現状で障害者を雇用する義務のなかった従業員40人の企業は、2024年4月より新たに障害者を1人以上雇用する義務が生じることになります。
随時、自社が引き上げに伴う対象の範囲になるのかどうかを確認しましょう。

従業員数のカウントは、1年を超えて雇用されている、もしくは1年を超えて雇用される見込みがある「常用労働者」を対象に、週の所定労働時間が30時間以上の従業員を1人として数え、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者に関しては0.5人としてカウントします。
正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、あくまで所定労働時間で判断します。
たとえば、所定労働時間が週30時間以上の従業員が10人、短時間労働者が35人の企業は、従業員数が40人を超えていますが対象の範囲外になります。

特定業種の設定除外率と障害者の算定方法

法定雇用率は障害者の雇用を確保するためのものですが、障害者の就業が困難とされる業種については、従業員数をカウントする際の除外率が設定されています。

この除外率は、ゆくゆくは廃止されることになっており、特例措置として当分の間は該当する業種ごとに段階的に引き下げられた除外率で対応されています。
除外率の段階的な縮小も決定しており、今回の改正により、2025年4月以降は一律で10ポイント引き下げられることになりました。
「船員等による船舶運航等の事業」の70%を上限に、「幼稚園/幼保連携型認定こども園」の50%、「道路旅客運送業/小学校」の45%と続き、下限は「非鉄金属第一次製錬/精製業/貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く)」の5%となっています。

除外率は、主に障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種に設定されており、これらの除外率が定められている業種では、障害者の雇用義務数を次の計算式で求めます。
{従業員数−(従業員数×除外率)}×法定雇用率

たとえば、改正後の金属鉱業の除外率は30%なので、実際の従業員数が40人だったとしても、新たに障害者を1人以上雇用する義務は生じません。

また、雇用の対象となる障害者についても算定方法が変更されました。
2023年4月以降、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者について、雇用率上、雇入れからの期間等に関係なく、1人としてカウントできるようになりました。
さらに2024年4月以降は、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者・重度身体障害者および重度知的障害者について、それぞれ1人を0.5人としてカウントできます。

障害者を雇用する義務のある企業は、毎年6月1日時点での障害者雇用状況のハローワークへの報告が義務づけられ、障害者の雇用の促進と継続を図るための『障害者雇用推進者』の選任が努力義務となります。
障害者の雇用の機会を増やして、すべての人が暮らしやすい社会になるために、雇用義務の対象である企業は制度をしっかり把握して遵守していきましょう。

2023.12.21 (人的資源)
自覚のない差別『マイクロアグレッション』が起きない職場を作る

パワハラやセクハラといった職場におけるハラスメントは、相手の人格や尊厳を傷つける行為として、日本でも広く認知されるようになりました。
また、女性の従業員だけにお茶くみをさせたり、男性の従業員に力仕事を強要したりといった、性別や性差をもとにした差別的な行為もジェンダーハラスメントとして浸透しています。
そのようななか、近年は本人に自覚のないまま差別的な言動をしてしまう『マイクロアグレッション』も問題視されつつあります。
職場で気をつけたいマイクロアグレッションについて、具体例を交えながら説明します。
 

職場の心理的安全性を下げることにつながる

会社や従業員にとって理想の職場とは、すべての働く人が安心して仕事に取り組み、自己の能力を最大限活かせる職場のことです。
従業員が組織について発言することに不安や恐れがない状態のことを『心理的安全性』といい、心理的安全性が高い職場は生産性も高くなり、逆に心理的安全性が低い職場は離職率が高くなる傾向にあります。

非難や侮辱などのハラスメント行為はもちろんですが、ハラスメントには至らない些細な言動でも、場合によっては従業員の心理的安全性を下げてしまう可能性があります。
特に、本人に自覚のないまま行われるマイクロアグレッションは、相手が密かに不満を溜めてしまう行為で、知らないうちに職場の心理的安全性を下げてしまうことにもなりかねません。

そもそもマイクロアグレッション(Micro aggression)は、1970年にアメリカの精神科医であるチェスター・ピアスが提唱した概念で、日本語では「小さな攻撃性」と直訳することができ、「無意識の差別的な言動」のことを指します。
当初は人種に対する無意識の差別的な言動を指す言葉でしたが、今では人種だけに限らず、国籍、宗教、文化的背景、性別、障害、肩書、立場などに対しての偏見などに基づく言動を意味するものになっています。

マイクロアグレッションの大きな特徴は、当事者に差別しているという自覚がなく、むしろ褒めようとして無意識のまま相手に差別的な言動を行なっているところにあります。
グローバル化やダイバーシティが進むなか、働く人々にとって、さまざまな人種や年齢、性別や能力、価値観の人と働く機会も増えてきました。
気づかないままマイクロアグレッションとなる行為をしないように、普段の言動には十分に注意しなければいけません。

マイクロアグレッションに該当する行為

職場の心理的安全性を下げてしまうマイクロアグレッションには、いったいどのような行為が該当するのでしょうか。

一般的には、偏見や見下し、ステレオタイプへの当てはめ、決めつけ、勝手な想像による言動などがマイクロアグレッションとされており、「◯◯なのに」や「◯◯だから」、「◯◯ではない」や「◯◯だろう」といった発言には最大限の注意を払う必要があります。

たとえば外国人労働者に対して「外国人なのに日本語が上手ですね」や「◯◯の出身だから仕事が丁寧だね」などは、ステレオタイプへの当てはめや決めつけなどに基づいた国籍や人種に関するマイクロアグレッションになります。

ジェンダーに関するものでは、「男性なのに字がきれいだね」や「女性だけどよくお酒を飲むね」のような、男らしさや女らしさに基づいた発言はマイクロアグレッションになります。
上司が「遅くなるから早く帰りなさい」と女性だけを家に帰したり、女性にのみ「◯◯ちゃん」と呼称したりすることも、職場で起こりがちなマイクロアグレッションと捉えられる可能性があるため注意が必要です。
ほかにも、「肌がきれいだね」や「まぶたが二重でうらやましい」などは身体に関するマイクロアグレッションで、「高卒なのに仕事ができる」や「シングルマザーだから頑張っている」などは経歴や家庭環境に対してのマイクロアグレッションとなります。

このように、発言や行動に一見ネガティブな要素がなく、相手を評価しているつもりでも、マイクロアグレッションによって知らずに人を傷つけてしまう可能性があります。

職場におけるマイクロアグレッションを防ぐには、まずどのような言動がマイクロアグレッションになるのかを理解し、相手を偏見の目で見ていないか、見下していないか、ステレオタイプに当てはめていないかと自問することです。
振り返ってみると、これまでにマイクロアグレッションだったという言動が思い当たるかもしれません。

また、すべての従業員に対して、マイクロアグレッションがどういったものなのか周知する必要もあります。
マイクロアグレッションはその言動に悪意がないことも多く、傷ついた相手は「悪気はないみたいだし」と指摘することができずに、小さなストレスを溜め続けていく可能性があります。
まずは、組織で働くすべての人を属性で見るのではなく、「個人」として尊重し、言葉を選んでいくことが大切です。
勉強会や研修などで従業員への周知を行うと同時に、相談窓口の設置などにより、マイクロアグレッションによって傷ついた従業員の声を拾える体制づくりも進めていきましょう。

2023.12.07 (労働法)
雇用のヒントに! 変わりつつある日本企業の雇用形態

コロナ禍の影響を大きく受け、この数年で企業における従業員の雇用形態にも変化がみられるようになりました。
日本には正社員、派遣、パート、アルバイトなどさまざまな雇用形態がありますが、現状では非正規雇用労働者が全体の約4割を占めているといわれています。
今回は、非正規雇用労働者が増加した背景を確認しながら、労働者にとって変わりつつある雇用に対する意識と、企業にとって有用な雇用形態について考察します。

働く人の約4割が非正規雇用労働者

厚生労働省の2023年度第1回雇用政策研究会の参考資料『足下の雇用・失業情勢や働き方等の変化について』によると、正規労働者・非正規労働者ともに増加傾向にあります。
特に、勤め先でパート、アルバイト、派遣社員、契約社員、委託などと呼ばれる、いわゆる『非正規労働者』は2010年以降増加が続き、一旦2020年で減少を見せましたが、2022年は対前年比で26万人と急増しています。
現在では役員を除く雇用者に占める非正規雇用労働者の割合は、全体の約4割です。

非正規労働者の数が増えた理由は、労働供給側である企業および労働需要側である労働者それぞれに要因があります。
まず、2001年以降、人件費の削減や雇用調整という目的で労働供給側である企業の雇用形態に、非正規雇用を活用する動きが強まったという背景があります。
その結果、一般的なパートタイム労働者(パートタイマー、アルバイト)や派遣労働者、契約社員(有期労働契約)以外の、業務委託(請負)契約を結んで働く人、家内労働者、自営型テレワーカーといった、時間や場所を選ばすに働ける職種が増えました。

コロナ禍によるリモートワークの推奨やワークライフバランスを重視した働き方など、人々の就業形態や労働意識が変わってきたことも、非正規労働を選択する人が増えた理由といえるでしょう。

現在の日本にある雇用の形を理解する

次に、現在の日本企業で導入されているさまざまな非正規雇用の形態を見ていきましょう。

(1)派遣労働者
労働者が人材派遣会社(派遣元)との間で労働契約を結んだうえで、派遣元が労働者派遣契約を結んでいる会社(派遣先)に労働者を派遣し、労働者は派遣先の指揮命令を受けて働きます。なお、給与は法律上での雇い主である人材派遣会社から支払われます。

(2)契約社員(有期労働契約)
正規労働者(正社員)と異なり、労働契約にあらかじめ雇用期間が定められている場合があります。

(3)パートタイム労働者
1週間の所定労働時間が、同じ事業所に雇用されている正規雇用労働者(正社員)と比べて短い労働者を指します(「パートタイマー」や「アルバイト」など呼び方は異なっても、この条件を満たせばパートタイム労働法上のパートタイム労働者となります)。労働時間によって、労働保険や社会保険の適用、年次有給休暇の扱いが変わります。また一般的に、福利厚生などは正規雇用労働者(正社員)と異なります。

(4)業務委託(請負)契約を結んで働く人
正規雇用労働者をはじめ、これまで紹介した(1)〜(3)の働き方は労働者として労働関係法令の保護を受けることができます。一方、業務委託や請負といった形態で働く場合には、注文主から受けた仕事の完成などの成果に対して報酬が支払われるため、注文主の指揮命令を受けない事業主として扱われ、基本的には労働者としての保護を受けることはできません(ただし、業務委託や請負といった契約をしていても、その働き方の実態から労働者であると判断されると労働関係法令の保護が受けられる場合もあります)。

(5)家内労働者
委託を受けて物品の製造や加工などを個人で行う人であって、その業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とするものを指します。家内労働法が定められており、事業主として扱われます。

(6)自営型テレワーカー
注文者から委託を受け、インターネットなど情報通信機器を活用して主に自宅または自宅に準じたみずからが選択した場所において、成果物の作成または役務の提供を行う人を指します(法人形態により行なっている場合や他人を使用している場合などを除きます)。

このように労働契約や、労働時間、労働場所などにより、さまざまな種類の非正規雇用の形態があります。

非正規労働者を活用するメリットデメリット

では、企業にとって非正規雇用労働者を活用することで、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
大きなメリットの一つは、高度な知識や専門技術を持つ即戦力となる労働力を確保できることです。
また、非正規雇用には正規雇用労働者(正社員)と比較して手厚い福利厚生を用意する必要がないため、人件費の削減につながるのもメリットといえます。

一方で、非正規雇用労働者ばかりを利用すると、知識や技術といった会社の資産が社内に蓄積されにくくなったり、それらが社外へ流出してしまったりというデメリットがあります。
自社で雇用している従業員であれば、育成することで会社の資産につながります。
しかし、非正規雇用の場合は「いつ退職や転職をされるかわからない」、契約によっては「一つのプロジェクトが完結すれば契約終了」となるため、後継者が育ちにくい環境になりがちです。
このようなことから仕事を限定してしまうことに繋がり、正規雇用労働者と比較すると、高度な知識や専門技術を持つ即戦力の確保という目的とかけ離れてしまうことがデメリットといえるでしょう。

非正規労働者の雇用は、企業側・労働者側の意向が合致してこそ多くのメリットを生み出すものといえます。
多様な働き方を自社の労働環境や事業内容やその時の目的にあわせて上手く取り入れることができれば、新たな労働力の確保につながるでしょう。

2023.12.07 (人的資源)
職場の人間関係を円滑にする『QCサークル活動』の進め方

製造業やサービス業などを中心に、『QCサークル活動』を取り入れる企業が増えてきました。
QCサークル活動とは、『小集団改善活動』とも呼ばれ、サービスの改善や品質管理の向上のために従業員が少人数でグループを組んで取り組む活動のことを指します。
QCサークル活動は品質管理の向上が主な目的ですが、副次的に職場のコミュニケーションを活発にし、人間関係を円滑にするというメリットもあります。
一方で、活動が従業員の負担になってしまうといったリスクもあります。
QCサークル活動を上手に進めるためのポイントについて解説します。

日本企業に定着したQCサークル活動の効果

QCサークル活動のQCとは『Quality Control(クオリティコントロール)』の略で、日本語では『品質管理』と訳すことができます。
もともと、1950年代にアメリカの統計学者であるW・エドワーズ・デミング博士によって、基礎となる品質管理の考え方や統計的手法が提唱され、それらの概念が日本に伝わってからは、品質管理を向上するための活動として各企業にQCサークル活動が定着しました。

ビジネスにおけるQCサークル活動は日本企業だけに見られる活動で、日本製品の発展や世界への進出などに大きな影響を与えてきたといわれています。
たとえば、トヨタ自動車では1960年代から、技能系の職場単位でチームを組みながら、品質の改善や従業員の意識向上、さらにはチームワークの醸成などを目的にQCサークル活動が行われてきました。

昔からQCサークル活動に力を入れている企業がある一方で、QCサークル活動を廃止してしまった企業もあります。
理由は、QCサークル活動には従業員の自発性が求められるため、通常の業務に追われるなかで、惰性で取り組んでしまうようになったり、形骸化してしまったりといったことが起きるためです。
したがって、QCサークル活動を形骸化させずに進めるには、目標とするものを明確にすることが大切です。
目標がないまま漠然と取り組んでいるだけでは、成果を出すことができません。
現場に潜む問題を解決したいのか、それとも製造工程を効率化させたいのか、目標を明らかにしたうえで、参加者の目的意識やモチベーションを保つことが重要になります。

また、気をつけなければいけないのは、QCサークル活動を会社主導で行う場合です。
QCサークル活動には、従業員が自主的に行う自由参加のものと、会社主導のものがあり、会社主導で行う場合は活動時間が労働時間となり、参加者に給与が発生します。
QCサークル活動を自由参加としつつも、参加することが暗黙の了解となっていたり、参加が人事評価の対象となっていたりする場合も、労働時間とみなされる可能性があるため注意が必要です。

人材育成にもなるQCサークル活動の流れ

QCサークル活動を継続していけば、サービスの改善や品質管理の向上を図れると同時に、組織の団結力のアップにもつながります。
小集団改善活動とも呼ばれている通り、QCサークル活動は現場単位の5〜10人ほどの少人数の従業員で行うのが一般的です。
上司と部下や同僚同士のコミュニケーションの場にもなるため、活動に取り組むうちに結束力が高まるといったメリットもあります。
また、部門や部署の垣根を越えた横断的なQCサークル活動であれば、普段は関わらない従業員とのコミュニケーションが生まれ、組織全体の活性化も期待できます。
活発な議論のなかから、サービスの改善や品質管理の向上を実現するための斬新なアイデアが生まれるかもしれません。
このような団結力の向上のほかにも、課題に取り組むなかで、従業員の問題解決能力や会社への帰属意識などの向上を図ることができます。

QCサークル活動を行うには、メンバーの選定が重要になります。
あくまで主となる目的は、サービスの改善や品質管理の向上なので、原則として同一の業務に携わる従業員や、共通のプロジェクトに関わる従業員を選定します。

続いて、目指すべき具体的な目標を細かく設定し、現状を把握したうえで改善のための検討を重ねていきます。
たとえば、ある製造業において従業員一人当たりの生産数の1割増を目標とした場合、現状の生産数を割り出し、削減できる工程はないか、作業時間は適正かなど、改善のための検討を行なったうえで実行していくという流れになります。

このように、QCサークル活動は共に一つの目標に向かって突き進んでいくため、仲間意識の醸成につながり、連帯感も生まれます。
生産性の向上や人材育成にも役立つQCサークル活動の導入を検討してみてはいかがでしょうか。